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和歌山地方裁判所 昭和56年(ワ)173号 判決 1983年1月18日

原告

大津輪猛夫

ほか一名

被告

山崎真孝

主文

一  被告は、原告らに対し、各四八八万八六一九円及び各内金四四四万八六一九円に対する昭和五五年九月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は四分し、その一は被告の負担とし、その余は原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告らに対し各一八五六万四五五二円及び各内金一六八七万七〇五二円に対する昭和五五年九月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  訴外亡大津輪義久(以下亡義久という。)は、昭和五五年九月七日午前一一時五〇分項、和歌山県日高郡龍神村大字龍神字五百原九一八番地の四八先国道三七一号線高野龍神スカイライン路上を自動二輪車(奈ま二七四八号、以下被害車両という。)を運転して東進中、西進して来た被告運転の普通乗用車(和五五る七三四〇号、以下加害車両という。)に接触してはね飛ばされ、死亡した。

2  本件事故は、被告が右国道を西進し本件事故現場付近に差し掛かつた際、同所はカーブが多く見通しが悪いのにかかわらず、最高制限速度を超える時速六〇キロメートルの速度で、かつ道路中央部分を超えて右側を進行し、更に前方注意義務を怠つて対向直進車である被害車両の発見が遅れ、回避措置不適切のために発生したもので、被告は、亡義久及び原告らが本件事故により被つた損害を賠償すべき義務がある。

3  亡義久及び原告らの被つた損害は、次のとおりである。

(一) 亡義久の逸失利益

亡義久は、本件事故当時、二二歳で、大木建設株式会社大阪支店に勤務し、給与年額一五九万八八八〇円(月額一三万二九九〇円)を得ていたが、本件事故に遭遇しなければ、五五歳の定年時に給与年額三八四万九〇〇〇〇円(月額三二万〇七五〇円)、その間、右各年収額の差額を中間年数で除した年額六万八一八五円の昇給をかさね、右定年後は五七歳まで参与としてなお勤務でき、定年時と同額の給与(据置)を受け、退職時に退職金一〇一六万一三六〇円(三二万〇七五〇円×三一・六八〔三三年勤続の場合の退職金係数〕)を受給し、右在勤中、夏期賞与は基本給に資格給、管理職手当等を加算した合計額に一・五か月を乗じた額、冬期賞与は右合計額に二・五か月を乗じた額の支給を受けるほか、五八歳から六七歳まで年額二五一万五三〇〇円(退職時の半額)の収入を得ることができ、生活費等に右収入の五割をあてる。

しかして、亡義久の本件事故による逸失利益の死亡時における現価は、別紙計算書記載のとおり四〇八六万一九〇四円である。

(二) 亡義久の慰藉料 一二〇〇万円

(三) 診療費 五万三〇三五円

原告らは、亡義久が収容され手当を受けた高野山病院に対し治療費等五万三〇三五円を支払つた。

(四) 葬儀費用 八八万八〇〇〇円

原告らは、亡義久の葬儀埋葬に各四四万四〇〇〇円を支出した。

4  原告らは、亡義久の父母であり、亡義久の逸失利益、慰藉料の賠償請求権を法定相続分に従い各二分の一宛相続した。

5  然るところ、原告らは、自動車損害賠償責任保険金二〇〇四万八八三五円を受給し、前記損害合計五三八〇万二九三九円に充当した。

6  原告らは、被告に対し、右損害賠償金残額三三七五万四一〇四円(各一六八七万七〇五二円)の支払を求め、本件訴訟の追行を本件訴訟代理人に委任し、勝訴判決を得られた後、請求認容額の一割三三七万五〇〇〇円(各自一六七万七五〇〇円宛)を弁護士費用として支払う旨を約した。

7  よつて、原告らは、被告に対し、以上合計各金一八五六万四五五二円及びこれらから各弁護士費用を控除した各内金一六八七万七〇五二円に対する本件事故の日の翌日である昭和五五年九月八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、事故態様の事実を否認し、その余の事実を認める。

2  同2の事実は否認する。

3  同3、4の各事実は不知。

4  同5の事実のうち、原告らが自動車損害賠償責任保険金二〇〇四万八八三五円を受給したことは認めるが、その余の事実は否認する。

5  同6の事実は不知。

三  抗弁

亡義久は、本件事故当時、被害車両(排気量五〇〇cc)を運転して高野山方面から龍神方面に向い進行し、本件事故現場に差し掛かつたものであるが、同所は長蛇の如く左右に曲りくねつた見通しの悪い道路で、かつ下り坂の危険な箇所であつたから、自動二輪車の運転者としては、交通の危険を生じたり、他人に迷惑を及ぼすおそれがあるような方法で運転してはならないことは勿論、最高制限速度時速四〇キロメートルの範囲内で適宜速度を調節し、道路の左側に寄つて走行しなければならないのに、これを怠り、時速約六〇キロメートルで、道路中央寄りのところを走行し、タイヤが摩滅していたこともあつて、ハンドル操作の自由を失い衝突するような方向に被害車両を逸走させ、本件事故の発生に原因を与えたものであるから、仮に被告に損害賠償責任があるとしても、賠償責任額を算定するにあたつては亡義久の右過失を斟酌しなければならない。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の事実は、事故の態様を除き、当事者間に争いがない。

右事実に成立に争いのない甲第二号証、第三号証の二、第一一号証の一ないし三、第一二、一三号証によれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、国道三七一号線(幅員七・二メートル、中央線あり、アスフアルト全面舗装)上で、衝突地点龍神寄りのカーブR二五、高野山寄りのカーブR三〇、高野山方面に向つて約一〇〇分の八の上り坂となり、前方の見通しは右カーブのため悪く、最高制限速度は時速四〇キロメートルである。

2  被告は、本件事故当時、加害車両を運転し、龍神方面から高野山方面に向けて時速約五〇キロメートルで進行中、通行車両が途絶えたため右カーブを小廻りすべく、本件事故現場の手前六一・一メートル付近から道路右側部分に進入し、四〇・一メートルあまり進行したとき、進路前方約四六・五メートルに被害車両を発見し、衝突の危険を感じ、ハンドルを左に切つて制動し、道路左側部分に避譲しようとしたが及ばず、急制動して右に傾いて滑走してきた被害車両を運転中の亡義久の右肩頸部等を中央線より左側四〇センチメートル道路左側部分に進入していた加害車両右前部に衝突させ、よつて亡義久に対し頸部骨折、右上腕骨折、右鎖骨折等の傷害を負わせ、同日午後二時二分頸椎骨折により死亡させた。

3  他方、亡義久は、本件事故当時、被害車両を運転し、高野山方面から龍神方面に向けて時速約五、六〇キロメートルで進行中、本件事故現場の手前二六メートル付近に差し掛つた際、進路前方約四六・五メートルに加害車両を認め、危険を感じ急制動したものの、スリツプして右に傾き、車輪による制動の自由を失つて被害車両右側部分を道路左側部分の路面で擦過しながら、身体は右側したままの状態で滑走し、右肩、頸部等を加害車両右前部に衝突させた。

以上の事実が認められ、成立に争いのない乙第三ないし第六号証の各供述記載中右認定に抵触する部分は前提各証拠に対比して措信することができず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、本件事故は被告が道路左側部分を徐行すべき注意義務を怠つた過失に基づくものであることが肯認できる。

したがつて、被告は、亡義久及び原告らが本件事故によつて被つた損害を賠償すべき義務があるといわねばならない。

二  そこで、亡義久及び原告らが本件事故によつて被つた損害について判断する。

1  亡義久の逸失利益

証人藤原茂博の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第六号証の一ないし三によれば、亡義久は、昭和五五年六月一日大木建設株式会社大阪支店に雇用され、本件事故当時満二二歳で一か月一三万二九九〇円(基本給六万六〇〇〇円、資格給三万二五〇〇円、超勤手当二万二一四〇円、通勤手当一万二三五〇円)の給与を受給していたこと、同年度の同会社の給与規程によると、夏期賞与は基本給に資格給を加算した合計額に一・五か月、冬期賞与は右合計額に二・五か月をそれぞれ乗じた額であることが認められ、右認定事実によると、亡義久の本件事故当時における年収は一九八万九八八〇円と算定できる。

してみれば、亡義久は、本件事故に遭遇しなければ六七歳まで四五年間右同様の収入を得たと推認し得べきところ、本件事故による死亡のため右収入を失つたものであり、右収入を得るための生活費はその五〇パーセントと認めるのが相当であるので、これを控除し、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して亡義久の逸失利益の本件事故時の現価を算出すると、二三一一万三一六九円となる

(1,989,880×0.5×23.230717)。

なお、原告ら主張の逸失利益の算定方式については、前掲甲第六号証、成立に争いのない乙第七、八号証、証人藤原茂博の証言によれば、昇給、昇格は人事考課に基づいて行われ、資格は個人の能力に応じて決定され、資格給、管理職手当は資格の段階に応じて支給され、賞与は会社業績等を勘案して支給されるが、個人別支給額は人事考課を反映して支給されること、参事への昇格はかなり限定されていること、大木建設株式会社は建築主力の中堅業者であるが、大幅経営赤字が続き、銀行管理で再建策を講じている状態にあることが認められる一方、亡義久は、本件事故当時、大阪工業大学土木学部四年在学中の身で、同会社に就職後三か月余にして、亡義久に対する人事考課、能力評定及び同人の職場への定着性等につき右昇給昇格、資格の基準に適応するものであると認めるに足りる的確な証拠がないので、採用することができない。

2  亡義久の慰藉料

前記認定にかかる本件事故の態様、傷害の部位、程度、年齢等諸般の事情を考慮すると、本件事故により亡義久が受けた精神的苦痛に対する慰藉料としては、一〇〇〇万円が相当である。

3  診療費

原告大津輪猛夫本人尋問の結果及びこれにより成立を認める甲第四号証の一ないし四によると、原告らは、亡義久が収容され手当を受けた高野山病院に対し治療費等五万三〇三五円を支払つたことが認められる。

4  葬儀費用

原告大津輪猛夫本人尋問の結果及びこれにより成立を認める甲第一四号証によれば、原告らが亡義久の葬儀埋葬に各四四万四〇〇〇円を支出したことが認められる。

三  次いで、被告の抗弁について考えるに、前記一認定にかかる事故の態様のもとにおいては、本件事故の主たる原因は被告にあることは明らかであるが、他方、亡義久にも左カーブの下り坂道を進行するにあたり、最高制限速度時速四〇キロメートルの範囲内で適宜減速し、道路の左側に寄つて道路左側部分内を安全に運行すべきであつたのにこれを怠り、同一速度のまま進行した過失があつたことが本件事故発生の一因であつたことは否定できないから、右認定の諸事情に照らし、被告には本件事故による前記各損害額合計三四〇五万四二〇四円の八五パーセントにあたる金額合計二八九四万六〇七三円の支払義務を負担させるのが相当である。

四  ところで、原告らが亡義久の父母であり、亡義久の逸失利益、慰藉料の賠償請求権を法定相続分に従い各二分の一宛相続したことは、原告大津輪猛夫本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により認められ、原告らが自動車損害賠償責任保険金二〇〇四万八八三五円を受給したことは当事者間に争いがない。

五  しかして、原告らは、被告に対し、前記各損害残額合計八八九万七二三八円(各四四四万八六一九円)の支払請求をなし得るところ、原告らが本件訴訟代理人に本件訴訟の提起、追行を委任したことは当裁判所に顕著であり、本件訴訟の難易、審理の経過、右認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件不法行為と相当因果関係にある損害としての弁護士費用は各四四万円と認めるのが相当である。

六  以上の次第で、原告らの本訴請求は、被告に対し各四八八万八六一九円及びこれらから弁護士費用を除く各四四四万八六一九円に対する本件事故の日の翌日である昭和五五年九月八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鐘尾彰文)

計算書

逸失利益の計算 死亡時の勤務先会社(大木建設株式会社)の停年は55歳、会社での身分が参事となつた場合は57歳停年である。殆んどの者は参事まで昇格するので57歳停年として計算(但し給与は55歳据置、退職金は55歳で打切り)。

58歳から就労可能年齢の67歳までの10年は停年時収入の1/2として計算。

(1) 給与 計算式(死亡時の年間給与)×Sn←年毎の増加額に対する36年間のホフマン係数+(昇給による年毎の増加額)×Pn←年間給与に対する36年間のホフマン係数(5%)

死亡時の年間給与(132,990×12月=1,598,880円) 死傷時と停年時のそれぞれの年収額の差額を中間年数で割つた

停年時 〃 (320,750×12月=3,849,000円) 平均額を採つて各年次に割りつけて算出(昇給年額68,185円)

(1,598,880×20.2746)+(68,158×314.5052)=53,861,189円……死亡時の現在価額

(2) 退職金 320,750円×31.68(大木建設33年勤務の場合の退職金係数)=10,161,360円……57歳停年時に支給を得るべき退職金額

(3) 賞与 給与規定によれば夏期賞与は(基本給+資格給+管理職手当)の合計額×1.5月 冬期賞与は合計額×2.5月

22歳~57歳まで合計15,694,291円-死亡時現在価額

(4) 58歳~67歳の収入 57歳の停年時の年収の1/2

停年時の年収 5,030,600×1/2=2,515,300

58歳~67歳の収入の死亡時の現在価額 合計8,333,854円

(5) 総計

(1)+(2)+(3)+(4)×1/2←生活費等=40,861,904円

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